8/31、子供たちにとっては夏休みの最終日。こんな日常と非日常が交差する日に小沢健二の「LIFE再現ライブ」が開催された。アルバム「LIFE」が発売されてちょうど30年、当時の録音メンバーを集めて「LIFE」を再現する一夜限りの武道館ライブ。
告知を知り、勢いで申し込んだチケットはめでたく当選、しかもアリーナの10列目。当時と変わらない小沢健二の甲高い声。何度も聞いたピアノやベースの旋律が僕のココロや脳みそに突き刺さる。
色んな感情が浮かんでは消え、ごちゃ混ぜになって僕の頭をグルグルと搔き乱す。まるでタイムマシーンにでも乗って、僕の人生をロングドライブしているみたいだ。
とてつもない疲労感。でも終わった瞬間に僕の口から出た言葉は「あー幸せ」。そんな多幸感にあふれた二時間半だった。
僕は今年57歳になる、このライブには26歳になる息子と一緒に出掛けた。たまに息子の部屋から小沢健二の曲が流れてくるのを知っていた。チケットが当たったことを伝えると、二つ返事で行きたいと言われた。
一緒にライブに行くなんて初めて。最近は会話らしい会話もない。何を話そうか考えながら席につくと息子がこんなことを言ってきた。
『「LIFE」が発売されたときの父さんは、今の僕と同じくらいの年だよね。』
『あーそうだな』
そんな曖昧な返事しかできなかったが、色んなことを考える。
当時の20代の自分と隣にいる正真正銘の20代の息子。30年の時を超えて出会い、友達になったような不思議な感覚。当時の僕、その後30年に渡って人生を歩んだ僕。そしてこれからどんな人生を歩むかわからない息子。息子には未来がある、僕にだってあるがたぶん30年はないだろう。
だけど二人とも、将来への期待や、夢や希望を信じて生きている。「LIFE」を聞いてそれを感じているから今日ここにいる。年齢も歳の差も関係ない、どちらも現在進行形の真っ最中。20歳そこらの小沢健二だって、きっとそんなひとりだったはずだ。もちろん今も。
「LIFE」は、30歳も年の差のある親子それぞれの人生に影響を与えている。30年の時空を超えて人を感動させる詞。どうして当時20歳そこらの小沢健二に書けたのか。小沢健二はそこまでわかっていて、これらの詩を書いたのだろうか。
ライブの途中、小沢健二がMCで言っていた。「LIFEとは、生きているものの持っている特徴を支える力」だと。どこかの作家の言葉らしいが、「LIFE」という言葉一つにもそんな思いを込める。そんな小沢健二はやっぱり偉大だ。
だから小沢健二の詩は古くならない。懐かしさも感じない、何年経っても素敵な力を僕らに与え続けてくれる。「LIFE」の中には「ぼくらが旅に出る理由」という曲がある。僕らは前に進まなければいけない。それが旅という言葉で表現されている、まさしく人生(LIFE)そのものだ。
当然そこには別れだってある。「天使たちのシーン」ではそんな人生の儚さと生きるための力を教えてくれる。この曲の最後、小沢健二のギターソロは、そんな生きることへの葛藤と強さを僕らに見せつけてくれた。
20歳の若者だろうが、60近くのオッサンだろうが関係ない、親子だって一緒。僕らは歩き続けるし、生きていく、ただそれだけだ。肉体は歳をとってもココロは歳をとらない。
僕にだってまだこれからがある、そんな生きる力をもらった一夜だった。なんかこれからの人生が楽しくなった。「LIFEとは、生きているものの持っている特徴を支える力」
その力を与えるものが勇気だと思う。僕もあとすこし、息子や誰かに勇気を与えられる自分でありたい。そんなことを思った。