上に立つ人間は人の悪口を言うことが多い(と思う)。あいつダメだよなー、なってないよな―なんて話は日常茶飯事。
でも自営業を営んでいる会社の社長が言う悪口と、サラリーマンの幹部が言う悪口は種類が違う(と思う)。
前者は正直な悪口、たとえば部下がなっていないとか、行政がしっかりしていないとか、商売相手への不信感に対する悪口なんかがそう。ココロの底からこの野郎という悪口。場合によっては部下に対しての叱咤激励、愛情に近い悪口もある。
それに対しての後者、サラリーマンの言う悪口は質が悪い。あくまで一般のサラリーマンでなくて幹部層の話。幹部は、相手を蹴落とそうとして悪口を言う。
例えば、出世を争っている相手に対して、もしくはポストを狙っている上司に対しての悪口。もちろん面と向かってそんなことは言わない。相手がいないところで関係者に向かって、あいつはダメだ、こういうところがおかしい、なんて話をする。
場合によっては、上司の上司に対してもそんな話をする。さっきも言ったように直接の上司が失脚すればそのポストは自分に転がり込む。要は正直な悪口というよりも策略的な悪口。自分が相手より優れている、それを見せつけるための悪口。
そんなテレビドラマみたいなこと実際にはないでしょっ、なんて思うかもしれないけど、実際によくあること。サラリーマン社会で出世するためには空きポストが必要。仕事で成果を出すことは誰でもできるけど、出世は狙ったポストにいる相手を蹴落とさないと実現できないから。至極当たり前と言えばそういうこと。
これが本来のリーダーシップかというとそんなことはない。でもそうやって出世する人は味方づくりも上手だから、その悪口に賛同する部下をうまく囲い込む。そして部下はそのスタイルを見習いながら、そういうリーダーシップのあり方が継承されていく。まったく面白い世界。
この様なお作法をサラリーマン社会の中では「コミュニケーション能力」という。あいつはコミュニケ―ション能力が高いよね、まだ若いけどコミュニケーション能力にたけたやつだ、なんて使い方をされる。誉め言葉だけど、世間一般的な意味では褒められていない。
まあ、こういう世界が嫌だったら、サラリーマンなんてならなければいい。それに全員が出世するわけでも、したいわけでもないのだから、人ぞれぞれ、自分が納得のいく仕事をすればいいだけだ。
だけど、こういう仕組みがあるということは知っておいた方がいい。なぜかというと意図せず利用されてしまうから。いつの間にやら仲間に囲い込まれて、その悪口の片棒を担がされることがある。だから、この人は自分を利用しようとしているなと勘づきながら深入りせず、如才なくふるまうのがいい。
自分はどうなのか、僕は俺が俺がというタイプではないし、仕事を淡々と進めるタイプ(だと思っている)。人の悪口を言うのも好きではない、言う時は正直に思うことしかいわない、というか言えない。
あーこの人、わざとこういうこと言ってるんだなということに気づいたのは、それなりに歳をとってから。それに気づいたからと言って自分もそうしようとは思わない。よくそんな面倒なことするなと思うだけ。
こういう環境の中で無事にサラリーマン生活を送ることができたのは恵まれていたからかもしれない。少なくともこのようなことを客観的に把握しながら会社を卒業できるのは幸せだ。
逆に言えば、だからこそ会社を卒業できない人が多いとあらためて思う。まわりにいっぱいいるでしょ、会社の地位や経歴に固執している人、そういうことなんですね。
会社の常識と社会の常識は違うんだよ。中学生でもわかることがわかってない、それがサラリーマン。悲しいね。